研修会
新しいバラを作る(育種)
2016.5.12(木)〜2017.2.2(木)
東京都立園芸高等学校
講師:野村 和子先生(NPIバラ文化研究所 理事)
【日程】
バラの交配の仕方 2016年 5月12日(木)
バラの採種と保存 2016年 10月27日(木)
バラの播種 2017年 2月 2日(木)
Ⅰ.バラの交配
バラの交配は、メンデルの優性の法則に当てはまらない。
既存のバラと同じ種子親(母)と花粉親(父)と掛け合わせてみても、同じ花は出来ず、千差万別な花が咲く。
それ故、バラ愛好家が交配し、独自のマイローズが生まれる楽しみがある。
Ⅱ.育種の一例
・最初の2年間、作業は全て温室内で行う。
【1年目】
春 10年後に、目指す目標を持ちつつ交配を行う。
10月末 種子を採取し、種子を冷やし冬眠状況に
置く為、冷蔵庫で保管する。
11月末 播種する(約5万種子を播種)
12月~ 発芽する(約2万株)
3月~ 花が咲く
選抜を行う( 1千株程度に絞り込む)
【2年目】 温室にこの1000種を植え付け、花を咲かせる。
選抜を行い、200株程度に絞り込む
【3年目】 ガーデンローズとしての評価をする為に、
露地に植え、選抜を行う。
【4年目以降】 上記作業を繰り返す。
【10年後】 5株ほどが残る程度になる。
<選抜の基準>
10年後に、目指す目標を持ちつつ交配、選抜を行うが、熟練者の「勘」の部分も多い。
選抜は、花の形だけではなく、樹形、耐病害虫性、葉と花のバランスなども重要な要因になる。
新品種として世に送り出すには不足があっても、交配親として優秀なものと見極めた場合は交配用として保存することもある。
Ⅲ.鈴木省三先生の育種バラ
鈴木省三先生は、当園芸高校の卒業生で、たくさんのバラの新品種を世に出された。
例えば、‘栄光’は、ピース(♀)とチャールストン(♂)を掛け合わせた種子親(♀)に、かがやき(♂)を交配して出来た。
このピースとチャールストンを交配してできた種子親のようなものを育種家は独自のバラを作り出すために大事にしていると思う。
結果の良い組み合わせの交配は、毎年同じ交配を繰り返すこともあるが、同じバラは出来ない。
鈴木省三先生の育種したバラが、園芸高校のバラ園には沢山あるので、どのような親の組み合わせで生まれたかを思い浮かべるのも楽しい事だと思う。
交配した実を収穫する鈴木省三(氏)と野村先生(左)
Ⅳ.バラの交配実習 2016年5月12日
実際は2日をかけて行うが、実習では2日をかけられないので、極力他の花粉を受けていそうもなくて受粉能力のありそうな花を選んでその日のうちに交配を行った。
1.交配には2日かかる。
なぜ2日かかるか?
しっかり開花している花の雌しべは受粉能力があり、雄しべも授粉できる状態になっているが、その時の雌しべはすでに他の花の花粉を受けてしまっている可能性もある。
そのため開花する一日前くらいのバラを選び、花弁と雄しべをすべて取り除き、雌しべだけにして他のバラの花粉を受けないよう袋をかぶせる、翌日には受粉能力がでている(柱頭に蜜がでる)ので、成熟した雄しべから花粉を出して交配をするため、2日かかるわけである。
2.種子親(母)の調整
明日開く、というバラの花弁と雄蕊をピンセットで取り除いて、雌しべだけにする。
翌日になると雌しべの先(柱頭)に蜜が出ていて受粉可能であることが分かる。
受粉能力は1週間くらい持続する。
3.花粉親(父)の調整
・取り除いた雄しべは他のバラに交配する為に保存するが、
その雄しべもまだ授粉能力はないので、
一晩乾燥させると先端の葯から花粉が出やすくなる。
・正方形のパラフィン紙を三角に折り、雄しべを入れ薬包紙の形に折る。
採取日と品種を書く。
翌日に薬包紙の外から指でたたくと、雄しべの葯から花粉が出る。
・乾燥済みの雄しべは採取日と品種名を記入して冷蔵庫で保管する。
秋に授粉するなら、花粉を冷蔵庫保存し、
来年使うなら、花粉を冷凍保存する。ただし、受粉率は下がる。
4.受粉
昨日以前に採取した雄しべの葯(花粉囊)から花粉を出させて、それを柱頭につける。
絵筆で花粉をつけるが、今回は綿棒を使用。絵筆を使う時は1回ごとにアルコールで消毒し、綿棒は使い捨てにする。
5.ラベル作成
交配日、交配親(種子親×花粉親)、記入したラベルを1花ごとにつける。
6.袋かけ
他の花の花粉がかからないように耐水性のある紙袋を被せる。3日経ったら外して大丈夫。
7.その後
受粉が成功しなければ、2週間くらいの内に黒ずんでいくが、受粉が成功すれば次第に花托(萼筒)がふくらんでゆき、青い実が出来る(下図左)。収穫は10月中旬(下図右)。1番花の成功率が高い。秋は寒くなるので実が成熟せず、交配に適さない。
Ⅴ.バラの採種と保存実習
1.準備する道具 ハサミ又はカッターナイフ、目の粗い布
2.バラの種子は赤い実(花托=萼筒)の中に出来ている。
3.秋になると実が黄色~赤になり、ふくらんでいく。
4.ハサミ又はカッターナイフで実を縦方向に二つに割る。
5.ピンセットで種子を傷つけないように取り出す。
6.種子を目の粗い布でこすり、種子の表面にある発芽阻害物質を取り除く。
小鳥たちが食べて,糞と一緒に落とされた種子は、
鳥の胃の中で阻害物質が除かれ、発芽しやすくなっている。
7.取り出した種子を水に浸して沈んだものだけを使う。
8.播種までの間、保管する時は種子が乾かないようにガーゼを湿らせ、
ビショビショにならないように絞ってビニール袋に入れ、
種子を冷蔵庫で保管する。
Ⅵ.バラの播種実習 2017年2月2日
1.土 : 赤玉土 又は 鹿沼土を使う。
2.ポット: 直径2.5~3㎝ポット
プラグ・トレーでもいいが、水の管理が難しい。
3.播種 : 種子をピンセットで2㎜程度の深さに埋め、覆土する。
箱蒔きの時は、2㎜程度の深さに線を引き、
その上に種子を蒔き、覆土する。
あらかじめ十分湿らせてから、播種をする。
4.水管理: 芽が出て来るまでは水分を切らしてはならない。
ジョウロの先から直接ポットに散水しないで、
蓮口を上に向けて優しくポットにまく。
直射日光は必要ないので、保湿の為、
新聞紙をかけておいても良い。
5.発芽時期:現在(2月)播種しても、発芽までに1か月程度は必要。
昨年秋に取り播きした種も1,2月に播いた種も発芽は3月になる。
発芽率は、30%程度であるが、1年後に発芽する事もあるので、
あきらめないで待つことも必要。
6.発芽後: 芽が出て来たら、すぐに日に当てる。その後、肥料を与える。
7.開花 :5月に開花するが、1年後になる場合もある。
オリジナルのマイローズとし、楽しむことができる。