バラの歴史
1 バラ栽培の目的と、香料バラの元祖
「バラの歴史は生きた文化遺産」
・・・そう提唱するのは岐阜県立国際園芸アカデミー学長の上田善弘先生です。
色と形の美しさ、香りの豊かさで花の女王と讃えられるバラですが、自然に今の姿になったのではなく、何千年にも渡る人間との関わりの中で進化してきたのだと言うのです。皆さんもご存知のように、桜やイチゴもバラ科の植物です。原種のノイバラと花の形が似ていますね。あの素朴な形から現代バラの高芯剣弁が生まれるまでに、どれだけの時間が費やされたのでしょう。そのヒストリーを想像するだけでワクワクして来ます。バラの歴史を知ることは、バラに注がれて来た無数の人々の愛と情熱を知ることなのですね。
このページでは、2015年のバラ園芸フォーラムでの上田先生の講演をもとに、バラ好きなら知っておきたいバラの歴史を分かりやすくまとめました。
☆ バラ栽培の最初の目的は何?
人類の記録に残された最古のバラの絵は、紀元前2000年から1400年頃にかけて栄えたクレタ島のクノッソス宮殿にあります。フレスコ画の断片にバラが描かれていたのです。まさに人類の文明の始まりと共にバラの歴史が始まったことを示しています。
さて、この古い時代、バラはどんな目的で栽培されていたのでしょう。文献をたぐると、紀元前12世紀頃の古代ペルシャやギリシャでは、宗教儀式にバラを使っていたという記録があります。古代の人間たちは、バラの豊かな芳香に心を鎮める神秘的な力があることを知り、バラから作った香料を神に捧げたのです。つまり、人類が最初に発見したバラの魅力は香り。観賞用ではなく、香料を得るためにバラを栽培し始めたのです。
☆ 香料バラの元祖はどんなバラ?
世界中に野生のバラは150から200種ありますが、そのすべてが北半球に自生しているということをご存知でしたか?一番南はエチオピアからサウジアラビア、北はシベリアからアラスカまで分布しています。日本のノイバラ、テリハノイバラ、ハマナスも原種のバラで、現代バラの進化に大きな影響を与えたのですが、それはもっと先に行ってから説明しましょう。
その150種以上もある野生バラのうち、改良に改良を重ねて現代のバラにまで系譜が続いているのはわずかに10種ほどに過ぎないと言われています。バラ研究者の中には8種と言う人もいますし、人によって数も違えば選んでいるバラもまちまちです。4千年も前からの系譜を辿るのはそれほど難しいことだと言えるでしょう。
ただし、香料を得るために最初に栽培されたバラには定説があります。南ヨーロッパに自生するガリカと、小アジア・中東に自生していたフェニキアが自然交雑して生まれたダマスク・ローズが、香料バラの元祖になりました。人類が手に入れた最強の香りと言われるダマスク・ローズは、イランやトルコを中心に栽培され、やがてアラブ世界全域に広がって行きます。そして、今もなお、香料用バラの代表選手として世界中で栽培されているのです。こうして始まったバラの栽培技術がどのようにしてヨーロッパに伝わったのか。続きは次の回でお伝えしましょう。