2.天然香料について
我々が生活している中で、いろいろな製品にバラの香りを感じますが、バラの香りにも、バラの花から採取した天然香料、バラの香りのする物質を化学的に作った合成香料、天然香料と合成香料をミックスして作られた調合香料の3種類があります。
天然香料を採取するバラは、例外を除いて、オールドローズであるロサ・ケンティフォリア(Rosa centifolia)とロサ・ダマスケナ(Rosa damascena)の2種類です。
ロサ・ケンティフォリアのcentはフランス語で百、百枚の花びらを持つバラというような意味で、最高級の香料を採取するバラはローズ・ド・メ(Rose de mai)、「5月のバラ」で、主に南フランス、モロッコ、エジプトなどの地中海沿岸の国で多く栽培されています。
ローズ・ド・メ(Rose de mai)2015年5月撮影
幸せなことに本校にこのローズ・ド・メがありますので是非、5月の開花している時に鑑賞してみてください。
バラの香料は紀元前から作られており、この時代は牛脂又は豚脂に若干の温度をかけて油状となった所にバラの花びらを投入します。
数日間、浸した後に花びらを除去し、残った油にアルコールなどの有機溶媒を混ぜると2層に分離し、有機溶媒の層にバラの香料成分が抽出されます。
有機溶媒の層を分離して蒸発させると、バラの香料のみが残ります。
この方法をマセラシオン(Macération)ー温浸法といいます。
ルネッサンスの頃になるとアンフルラージュ(Enfleurage)ー冷浸法が考案されました。
画像のように常温で牛脂又は豚脂が柔らかいバターの様になっている所に、花びらを敷き詰め、数日経過させます。
香り成分を脂に吸着させた時点以降の香料を採りだすまでの工程はマセラシオンと同様ですが、こちらの方が工程中に熱がかからない分、良質の香料が採取できます。
現在ではこれらの方法では効率が悪いので、エーテル、ベンゼンなどの有機溶媒の中に直接バラの花を浸け、香り成分が溶け出した頃合いを見計らって花びらを除去し、有機溶媒を減圧の状態の中でできるだけ温度をかけずに有機溶媒を蒸発させて香料を取り出す方法が用いられています。
この方法で得られた香料をローズ・アブソリュート(Rose absolute)といいます。
ただ100kgのバラの花から2-30gくらいの香料しか採れませんので非常に高価とな
る為、高級香水のようなごく限られた製品にしか使うことができません。
実際にアンフルラージュ(Enfleurage)の掲載できる画像がありませんので、ご興味のある方は検索してみてください。
ロサ・ダマスケナ(Rosa damascena)2017年5月撮影
ロサ・ダマスケナ(Rosa damascena)は黒海沿岸地域であるブルガリア、トルコなどで栽培されおり、こちらは伝統的に水蒸気蒸留法によって香料が採取されています。
旧式の水蒸気蒸留装置(スイスの香料会社にて1984年撮影)
水蒸気蒸留とは、図のような大きな釜の内部の中央部に簀の子のような仕切りがあり、上半部にバラの花を投入します。下半部には水を入れます。
釜の下を熱し水が沸騰しますと、水蒸気が中央部の簀の子のような仕切りを通って上昇していきます。
この時、水蒸気と一緒にバラの香りの成分も上昇していきます。
最上部まで上昇したところで管を下に曲げ、その部分を冷却すると、香りの成分を含んだ水蒸気が再び水となって、受けているビンの中では、水に油が浮いたような状態で溜まっていきます。
この水に、水には溶けない、例えば石油エーテルとかn-ヘキサンのような有機溶媒を混ぜると2層に分離し、ほとんどの香料成分は有機溶媒の層へ移行します。
有機溶媒の層のみを単離して、減圧下で溶媒のみを蒸発させると香料のみが残ります。これをローズ・オットー(Rose Otto)と呼びます。
これもローズ・アブソルート同様に100kgのバラの花から2-30gくらいしか採れないので非常に高価となるため、高級な香水などごく限られた製品にしか使用されません。
また、先ほどの2層に分離した水の層にも、水溶性のバラの香り成分が含まれています。
この水はローズ・ウォーター(Rose Water)として化粧品に利用されています。